最近、編集部では、ある美容業界の経営者と定期的に話をする機会がある。20年近く美容室の現場経営を続け、現在は大手企業グループに参画しながら、美容業界全体の仕組みにも関わっている人物だ。
その対話の中で、よく出てくる話題がある。
「美容業界って、個人の力に頼る場面が多すぎない?」
サロン経営や教育に向き合う中で、「結局、人に頼るしかないのか」と感じたことがある人も多いのではないだろうか。
今回はそのやり取りをもとに、編集部の視点から
- 最近業界でよく感じる違和感
- 大手グループ参画で見えた変化
- ヘアメイク師モデルの課題
この3点を整理してみたい。
最近、業界で一番感じるのは「再現性の弱さ」

美容業界の成功事例を見ていると、だいたい次のような話になることが多い。
- カリスマ美容師がいる
- センスのあるオーナーがいる
- 強い店長がいる
- 優秀な教育担当がいる
つまり、成果の理由がほとんど「人」に紐づいている。
言い換えれば、「あの人がいるかどうか」で結果が変わってしまう構造とも言える。
一方で、その人が退職した、休職した、異動した途端、
- 売上が落ちる
- 教育が止まる
- 組織が不安定になる
- ブランド力が弱まる
といったケースも、珍しくない。
こうした状況に、心当たりがあるサロンも少なくないだろう。
別の言い方をすると、美容業界には「誰がやってもある程度同じ結果が出る仕組み」が少ない。
飲食業界や小売、IT業界では、
- マニュアル
- オペレーション
- 評価制度
- 教育カリキュラム
- データ管理
といった仕組みが比較的整っているが、美容業界では店舗ごとの差が大きい。
新人が育たない理由や、店舗ごとの差が広がる背景にも、この構造は関係している。
その結果、業界全体が
「優秀な個人を探し続ける構造」
になりやすい、という特徴がある。
テンポス参画で変わったのは「話題の内容」

その経営者が、大手企業グループに参画して最初に感じた変化は、意外にも「売上」や「規模」ではなく、会話の中身だったという。
以前よく出ていた話題は、
- どの店舗が調子いいか
- どのスタッフが優秀か
- どんなメニューが流行っているか
といった、現場中心の内容だった。
日々のミーティングや面談でも、似たような話題が中心になってはいないだろうか。
一方で、参画後に増えたのは、
- このビジネスモデルは再現できるか
- 人が変わっても回るか
- 組織として成立するか
- 他業界でも使えるか
- 長期的に続くか
といった、仕組みそのものに関する話題だった。
人が変わっても、新人が入っても、同じように回るかどうか。そうした視点が、会話の中心になっていったという。
つまり、話の軸が
「どうやって成果を出すか」から「どういう仕組みなら続くか」
に変わったということになる。
外の産業の人たちから見ると、美容業界は「仕組みよりも個人に依存している割合が高い業界」に見えることが多いらしい。
ヘアメイク師モデルの課題は「評価の基準」

現在進められている「ヘアメイク師」という働き方についても、同じような課題がある。
最大のポイントは、「ヘアメイク師を、どう評価するのか?」という基準がまだはっきりしていないことだ。
サロンワークの場合、
- 指名売上
- 客単価
- リピート率
- 技術レベル
- SNSフォロワー
など、比較的分かりやすい指標がある。
一方、ヘアメイク師の仕事は、
- 撮影
- イベント
- 学校
- 企業案件
- 教育
- ディレクション
など幅が広く、成果を数値化しづらい。
頑張っている実感はあっても、それがどう評価されているのか分からない。そんな状態が生まれやすい。
そのため、「良いのか悪いのか」「成長しているのかどうか」を判断する基準が曖昧になりやすい。
モデル自体は魅力的だが、この先、自分がどんな成長をしていくのかを描きづらい、という声が出やすいのも、この構造が原因の一つだ。
これは個人の問題というより、新しい働き方に対して、評価制度がまだ整っていない段階でよく起きる現象とも言える。
今、美容業界に投げかけられている問い
ここまでを整理すると、ひとつの問いが浮かぶ。美容業界は、どこまで「個人の力」に頼り続けるのか?
それは同時に、自分のサロンや、自分自身の働き方についての問いでもあるのかもしれない。
さらに言えば、「人が変わっても回る仕組み」を、本気で作ろうとしている企業や組織は、どれくらいあるのか。という問いでもある。
仕組みづくりは、
- すぐ成果が見えない
- 調整に時間がかかる
- 会議が増える
- 数字に直結しづらい
という意味で、正直かなり地味で大変な作業だ。
ただ、その経営者はこう話していた。
「個人で成果を出すこと自体は、今まで通りできる。でも、仕組みで回る業界は、誰かが作らないと一生できない。」
美容業界がこの先どんな形になっていくのか。その分かれ目は、「個人」ではなく「仕組み」に、どれだけ目を向けられるかにあるのかもしれない。

