#3 どんな美容師教育モデルを作ろうとしているのか|通信制高校をベンチマークにして再設計

前回の記事では、美容業界で繰り返されている「人が辞める」「育たない」「戻ってこない」という課題が、個人の問題というより、教育や評価の設計そのものに原因があるのではないか、という点を整理した。

では実際に、この構造を変えるとしたら、どんなモデルが考えられるのか。

ここから先は、すでに完成した正解の話ではない。編集部として、現場の声や他業界の事例を踏まえながら、「現実的に成立しうる一つの設計案」として見えてきている構想を整理していく。

編集部が今、選択肢の一つとして注目しているのが、

カリキュラム連動型・動画教育モデル
(通信制高校モデルの美容業界版)

という考え方だ。

目次

美容業界に存在しない「共通のベーシック」

現場で話を聞いていると、よく感じる違和感がある。

同じ国家資格を持つ美容師であっても、

  • シャンプーのやり方
  • ヘッドスパの考え方
  • カラーの塗り方
  • カットの基礎理論

といった基本的な部分が、サロンごとに大きく異なる。

極端に言えば、隣の美容室に移った瞬間、これまで当たり前にやってきたことが、そのまま通用しないケースも珍しくない。

看護師や教師、エンジニアなどは、職場が変わっても「最低限の共通知識」が前提として共有されている。一方で美容業界では、業界全体で共通している“ベーシックな技術体系”が、ほとんど存在していない。

この状態が、転職や復帰のハードルを、無意識のうちに高くしている側面もある。

通信制高校モデルというヒント

そこで参考になるのが、通信制高校の仕組みだ。

通信制高校では、

・全国どこでも
・同じカリキュラムを
・同じ動画教材で学び
・同じ単位認定基準で評価される

学校や先生が違っても、学ぶ内容と評価の軸は共通している。

編集部が注目しているのは、この「教育の標準化」という考え方を、美容業界にも応用できないか、という点だ。

動画×カリキュラム連動型教育という発想

具体的なイメージは、次のようなものだ。

・既存の動画教育サービスなどを活用しながら
・業界共通の技術カリキュラムを設計し
・全国の美容師が、同じ順番で学べる状態を作る

たとえば、業界ではヘアキャンプのような動画学習サービスがすでに広く使われているが、ここで話したいのは特定のサービスを推すことではなく、「動画を使って教育を共有する」という構造そのものだ。

重要なのは、

『有名美容師の技術を見ること』
『流行りの技術を追いかけること』

そのものではなく、

『業界として共通の「ベーシック」を揃えること』

に意味がある、という点だ。

ベーシックを揃えた上で「違い」を出す

もしこのモデルが機能した場合、業界の構造はこう変わる。

全国の美容師が、

  • 同じシャンプー理論
  • 同じトリートメント設計
  • 同じカラーの考え方
  • 同じ基礎カット理論

を学ぶ。

その上で、各サロン・各個人が、そこに自分たちのスタイルや価値観、表現を重ねていく。

つまり、

・ベーシックは共通
・表現は自由

という状態だ。

これは、「どの店も同じになる」という話ではなく、「土台を揃えた上で違いを出す」という考え方に近い。

何が変わるのか

この仕組みが整った場合、現場では次のような変化が考えられる。

① 転職しても、教育がゼロからにならない
どのサロンでも「このカリキュラム、受けたことありますか?」という共通言語が生まれる。

② 離職しても、復帰しやすくなる
出産や育児、体調不良などで現場を離れても、同じカリキュラムに戻ることで、技術をアップデートできる。

③ 教育が属人化しにくくなる
サロン側も、

・特定の教育担当者に依存しない
・ゼロから教え直さなくていい
・感覚だけに頼らない

という状態に近づいていく。

今の自分のサロンに当てはめたとき、「何をどこまで教えればいいか」が見えにくい、その曖昧さ自体が減っていく可能性がある。

本質は「動画」ではなく「教育設計」

このモデルのポイントは、動画であること、オンラインであることそのものではない。

本質は、教育を「個人のやり方」ではなく「業界で共有できる設計」に変えていくことにある。

これによって、

・個人の経験頼みだった教育
・サロンごとの独自ルール
・人が変わると崩れる育成体制

から、少しずつ距離を取れる可能性が出てくる。

なぜ、今まで難しかったのか

この構想がこれまで実現しづらかった理由は、シンプルだ。

・時間がかかる
・調整が多い
・すぐに売上に直結しない
・途中は成果が見えにくい

経営的に見ると、どうしても「後回し」にされやすいテーマだった。

結果として、

・目の前の売上
・今いるスタッフの育成
・自社だけの最適化

が優先され、業界全体の教育設計には手がつきにくかった。

「辞めない業界」ではなく「戻れる業界」

この構想が目指しているのは、

・離職ゼロ
・定着率100%

といった理想論ではない。

現実的に見ているのは、辞めても、戻るルートがある業界という状態だ。

キャリアが完全にリセットされず、経験が積み重なり、場所が変わっても一定レベルで通用する。

これは、働き方の話というより、業界の仕組みそのものの話に近い。

次に見えてくるテーマ

ここまで整理すると、次の問いが自然に浮かぶ。

この教育モデルを、どうやって「業界全体」に広げていくのか?

個社の取り組みで終わらせず、標準として根づかせるには、どんな仕組みが必要なのか。

次回は、その実装の話、つまり「どうやって現実にしていくのか」という部分を整理していきたい。

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